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富士山インタビュー

夏の富士山はいろんな“人間ドラマ”を見に行く場所でもあると思っています

鈴木啓悟さんが中学2年生の時に開設したインスタグラムのフォロワーは現在2万人以上。
2年生の頃から“高校生富士山写真家”として注目を集めてきた鈴木さんの写真は、世界中の人を惹きつけているのです。
2023年春、高校卒業を機にプロの写真家として活動をスタートさせた鈴木さんは今、
富士山にこだわりつつも被写体の幅を広げ、新しい境地を切り拓いていこうとしています。
爽やかで柔らかな物腰と、ひとつのことを追求しているからこその芯の強さが印象的な好青年でした。
写真:井坂孝行/取材・文:木村由理江

誰でもきれいに撮れると思っていたから、富士山を撮る気にはならなかった

−どんなお子さんだったんですか。

 好きなことにのめり込むタイプでした。小学3年生くらいまで建設重機が好きだったんですけど、大人に負けないくらいマニアックだったというか(笑)。カメラも最初は見た目のカッコよさから入ったんですよ。だから最初は遊び感覚で家にあったコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)を触ったり、シャッターをパシャパシャ押したりしてたんです。でも小学校5年生の時に、たまたま母から僕がカメラで遊んでいると聞いた祖父が「使ってないデジタルの一眼レフがあるから」って。一眼レフはコンデジと違って“ボケ”ますよね。それが新鮮で一気にハマっていきました。

−その頃すでに富士山を撮っていたんですか。

 撮っていたのは花や野鳥です。富士山は誰が、どう撮ってもきれいに撮れちゃうと思っていたし、その時はまだ他の山と同じようにしか考えていなかったのでまったく撮る気にならなかったですね。でも中学2年生の冬の朝、いつものようにカメラを持って河口湖の周辺を散歩していたら“紅富士”が目に飛び込んできて・・。どこかぼーっとしたイメージしかなかった富士山が、その時は雄々しくて、神々しくて、本当にカッコよくて。こんな表情があったのか! と衝撃を受けました。そこから富士山は特別な存在になったし、もっと富士山のいろんな表情を撮ろうと、毎日撮るようになりました。

−毎日! まさに“のめり込んで”いったわけですね。

 まずはネットでいろんな富士山の写真を見て、どこから、どんな時期に、どんな表情が撮れるのかを研究して、それから朝の散歩や放課後に撮りに行くようになりました。富士山のことも、富士山をどうやって撮ればいいかもわかってなかった最初の頃は、富士山が雲に隠れていても、雨が降っていない限り自転車に乗って出掛けてました。おかげで雲や風の流れ、時間帯によって景色がどう変化するかとかいろんな発見をしたし、富士山だけでなく河口湖の魅力を知ることができました。高校生になってからは、授業中も常に富士山や写真のことを考えてました(苦笑)。

−すでにプロの写真家を目指していたということですか。

 きっと無理だろうと思っていたので別の道に進むつもりでした。でも高校2年生の頃からいろんなメディアで取り上げられ、たくさんの人に自分の写真を見てもらえるようになって少しずつ考えが変わったというか。家族や僕が“師匠”と憧れる方など周囲の支えもありつつ高校3年生の夏、自分の意志で高校卒業後はプロの写真家として活動しようと決めました。親はずっと「自由に好きなことをやっていいよ」と応援してくれています。

地元で生まれ育った母親が感動してくれると、めちゃくちゃ嬉しい

−プロの写真家として富士山を撮り始めて1年ちょっと。変化したことはありますか。

 富士山のために自分ができることはないかと考えるようになりました。モデルさんにお願いする時にはお金を払うけど、富士山は自由に撮らせてくれますから。ゴミや環境の問題にも、真剣に向き合うようになりましたね。あと、富士山の魅力だけでなく、富士山を裏で支える人たちの話を聞いたり、ありのままの姿を撮りたいと思うようになったので、今、“富士山と富士山の麓に暮らす人たち”というテーマで写真を撮っています。富士山の山開きとか富士山にまつわる地元の祭りとかも、撮るようになりました。

−富士山の麓に暮らす人たちには、どんな共通点がありそうですか。

 みなさん何かしら富士山との関わりを持ってはいるんですけど、富士山にはそれほど興味がないというか(笑)。見慣れすぎているからなのか、きれいだと思っても、県外や外国から来た人たちのように感動したり驚いたりはしないですね。でもだからこそ地元の人も知らない富士山を撮りたいと思うし、それを世界中に発信したいという気持ちは強いです。地元で生まれ育った母親が、僕の写真を見て驚いたり感動したりしてくれるとめちゃくちゃ嬉しいです。

−鈴木さんが好きな富士山も教えてください、時間帯とか季節とか場所とか。

 よく撮っている時間帯は、富士山が肉眼でなんとか見える夜明け前から午前8時くらいまで。単純にきれいだし、表情がどんどん移り変わっていくんです。季節は・・。どの季節も好きですけど、一番は、山肌が緑から黄色に色づいていく夏から秋へ季節が入れ替わる時期ですね。場所はやっぱり河口湖です。初めての場所から富士山を撮るのも新鮮で刺激的ですけど、生まれ育った地元から見る富士山はやっぱり落ち着きます。裾野まできれいに見えるし。

−富士山を撮る時にこだわっていることはどんなことですか。

 撮り方に“正解”はないから、それぞれ自分の好きなように撮るのが一番だと思いますけど、僕はど真ん中に富士山を入れて左右対称に撮るのが好きですね。富士山の魅力が一番伝わりやすいと思います。あと、水平をきっちりとることも大事にしています。人間も水平に見ているし、電線や大きなビルが斜めになっていたらドキッとするじゃないですか。見て安心できる、落ち着いた写真がいいなと思って。

富士山にはいつまでも堂々としていてほしいし、見守り続けてほしい

−これまで見てきた富士山の中で、最も衝撃的だった富士山を教えてください。

 2021年5月に山中湖で見た富士山です。そこにいたのは僕だけだったんですけど、富士山の上に雲があって、全体が真っ赤に焼けて・・。衝撃的すぎて、撮りながら手が震えました。ただそういう感動や衝撃が伝わる写真を撮るのってすごく難しいんですよ。毎回悔しいなと思うし、そこはこの先もずーっと追求していきたいです。

−インスタグラムの鈴木さんの写真を拝見していると、どうしてこんな瞬間の写真が撮れるのかと驚くものがたくさんあります。何か秘訣はありますか。「いい写真が撮れますように」といつも富士山にお願いしてるのでしょうか。

 心の中では、そうですね(笑)。いろいろ撮ってきているので、今日、あの時間帯にあの場所へ行ったらこんな富士山の写真が撮れそうだとある程度想像はつくんですけど、相手は自然ですからね。そこから先はもう“お任せ”というか。自分でも驚くようなすごい写真が撮れるのって年に数回しかないんですけど、撮れた時には「本当にありがとう」って心の中でめちゃくちゃ思うし、誰も見たことがない富士山の写真を撮りたいという自分の気持ちに、富士山が応えてくれたのかなと思ったりはします。

−鈴木さんにとって富士山はどんな存在?

 地元に住んでいるとどこからでも見られるので、常にそこにいて見守ってくれているイメージがありますね。富士山を見ると疲れも嫌なことも吹き飛ぶし、学校に行くのも楽しくなったし、苦手な勉強も頑張ろうと思えたし・・。もし富士山がここになかったら、どうなっていたんだろうと思います。あと、ちょっと大袈裟かもしれないですけど、自分の人生を変えてくれた、すごく大きな存在でもありますね。僕が紅富士を見たのは、一瞬、写真に飽きていた時期だったんです。あの時、紅富士に出会わなかったら、写真はやめていたかもしれない。今、こうやって写真家になっているのは、富士山のおかげという気がします。

−プロになって2年目。この先、富士山写真家として考えているのはどんなことですか。

 一生富士山を撮り続けたいし、まだ見たことのない富士山を発信し続けたいという気持ちはもちろんあるんですけど、世界各国を旅したいと思っています。外国の人たちの暮らしや文化に触れることは、富士山や地元のよさを再発見することにつながると思いますから。そして一番気に入った国や街にしばらく住んで、そこで暮らしている人たちのありのままの姿を撮りたいですね。お金を貯めながら、ちょっとずついろんな国に行こうと考えています。

−最後に今後の富士山に期待すること、こうあってほしいと願うことを教えてください。

 噴火のような自然現象は別として、今のまま、変わらずどっしり堂々としていてほしいし、見守り続けてほしいです。環境の問題は、僕たち人間でしっかり考えていきたいですね。

鈴木啓悟
すずきけいご

すずきけいご 2004年 富士河口湖町生まれ 2歳上の兄(現在大学でデザインを勉強中)と2歳下の妹がいる。3歳の時に祖父に連れられて初めてピクニックに行って以来、山登りは趣味のひとつ。河口湖周辺の山はもちろん、中学時代は南アルプスへも祖父と一緒に足を延ばした。富士山の写真を撮り始めてからは年に1度は富士山にも登っている。これまでは自転車を駆って撮影スポットを巡っていたが、まもなく自動車の運転免許を取得の予定。活動範囲の広がりが写真にどんな影響を与えるのか楽しみ。

鈴木啓悟のHP
https://fujisankeigo.supersale.jp
鈴木啓悟のインスタグラム
https://www.instagram.com/mt.fuji._.keigo/

インタビューアーカイブ
山田淳富士登山のスペシャリスト
田中みずき女性絵師
青嶋寿和マウントフジ トレイルステーション実行委員長
森原明廣山梨県立博物館学芸課長
渡邊通人富士山自然保護センター自然共生研究室室長
田近義博富士山ツーリズム御殿場実行委員会事務局長
中島紫穂富士山レンジャー
植田めぐみフリーカメラマン
外川真介上の坊project代表・天下茶屋三代目
山本裕輔印伝職人・印伝の山本三代目
金澤中シンガー・ソングライター
池ヶ谷知宏goodbymarket代表・デザイナー
田代博一般財団法人日本地図センター常務理事・地図研究所長
宮下敦成蹊気象観測所所長
加々美久美子御師旧外川家住宅館内ガイド&カフェ「北口夢屋」オーナー
土器屋由紀子認定NPO法人富士山測候所を活用する会理事・江戸川大学名誉教授 農学博士
福田六花医学博士・ミュージシャン・ランナー
舟津宏昭富士山アウトドアミュージアム代表
小松豊特定非営利活動法人 土に還る木 森づくりの会代表理事
菅原久夫富士山自然誌研究会会長・富士山の自然と花を観る会主宰
新谷雅徳一般社団法人エコロジック代表理事
堀内眞富士山世界遺産センター学芸員
杉山泰裕静岡県文化・観光部理事(富士山担当)
前田宜包富士山八合目富士吉田救護所ボランティア医師・市立甲府病院医師
高林恵梨子静岡県人事委員会事務局職員課任用班
今野登志夫陶芸家
遠藤まゆみNPO法人三保の松原・羽衣村事務局長、羽衣ホテル4代目女将
佐野彰秀バンブーアート作家
オマタタツロウ音楽家・画家
高橋百合子富士吉田市教育委員会 歴史文化課 課長補佐
内藤恒雄手漉和紙職人・駿河半紙技術研究会会長
太田安彦一般社団法人 ヨシダトレイルクラブ代表理事・富士吉田市公認富士登山ガイド
影山秀雄機織り職人 手機織処 影山工房主宰
江森甲二裾野市もののふの里銘酒会会長
中尾彩美富士山ビュー特急アテンダント
渡辺義基渡辺ハム工房
古屋英将株式会社ミロク代表取締役社長
井出宇俊井出醸造店・井出酒類販売株式会社営業部
望月基秀製茶問屋 株式会社静岡茶園 常務取締役
関根暢夫・ふじゑさん夫妻ふじさんミュージアム 手話ガイド
御園生一彦米久株式会社代表取締役社長
rumbe dobby手織り作家
小山真人静岡大学 教授 理学博士
勝俣克教富士屋ホテル 河口湖アネックス 富士ビューホテル支配人
漆畑信昭柿田川みどりのトラスト、柿田川自然保護の会各会長
日野原健司太田記念美術館 主席学芸員
渡井一信富士宮市郷土資料館館長
大高康正静岡県富士山世界遺産センター学芸課准教授
渡辺貴彦仮名書家
望月将悟静岡市消防局山岳救助隊員・トレイルランナー
成瀬亮富士山写真家
田部井進也一般社団法人田部井淳子基金代表理事、
クライミングジム&ヨガスタジオ「PLAY」経営
齋藤繁群馬大学大学院医学系研究科教授、医師、日本山岳会理事
吉本充宏山梨県富士山科学研究所 火山防災研究部 主任研究員
柿下木冠書家・公益財団法人独立書人団常務理事
菅田潤子富士山文化舎理事『富士山事記』企画編集担当
安藤智恵子国際地域開発コーディネーター
田中章義歌人
千葉達雄ウルトラトレイル・マウントフジ実行委員会事務局長、
NPO法人富士トレイルランナーズ倶楽部事務局長
松島仁静岡県富士山世界遺産センター 学芸課 教授(美術史)
大鴈丸一志・奈津子夫妻御師のいえ 大鴈丸 fugaku×hitsukiオーナー
有坂蓉子美術家・富士塚研究家
小川壮太プロトレイルランナー、甲州アルプスオートルートチャレンジ実行委員会実行委員長
飯田龍治アマチュアカメラマン
篠原武ふじさんミュージアム学芸員
吉田直嗣陶芸家
春山慶彦株式会社ヤマップ代表
中野光将清瀬市郷土博物館学芸員
久保田賢次山岳科学研究者
鈴木千紘・佐藤優之介看護師・2014年参加, 大学生・2015と2016年参加
松岡秀夫・美喜子さん夫妻「田んぼのなかのドミノハウス」住人
三浦亜希富士河口湖観光総合案内所勤務
石澤弘範富士山ガイド・海抜一万尺 東洋館スタッフ
大庭康嗣富士山裾野自転車倶楽部部長
杉本悠樹富士河口湖町教育委員会生涯学習課文化財係 主査・学芸員
松井由美子英語通訳案内士・国内旅程管理主任者
涌嶋優スカイランナー、富士空界-Fuji SKY-部長、日本スカイランニング協会 ユース委員会 委員長・静岡県マネージャー
岩崎仁合同会社ルーツ&フルーツ「富士山ネイチャーツアーズ」代表
門脇茉海公益財団法人日本交通公社研究員
渡邉明博低山フォトグラファー・山岳写真ASA会長
藤村翔富士市市民部文化振興課 富士市埋蔵文化財調査室 学芸員
勝俣竜哉御殿場市教育委員会社会教育課文化スタッフ統括
前田友和山梨自由研究家
杉山浩平東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員 博士(歴史学)
天野和明山岳ガイド、富士山吉田口ガイド、甲州市観光大使、石井スポーツ登山学校校長
井上卓哉富士市市民部文化振興課文化財担当主幹
齋藤天道富士箱根伊豆国立公園管理事務所 富士五湖管理官事務所 国立公園管理官
齋藤暖生東京大学附属演習林 富士癒しの森研究所所長
池川利雄ノースフットトレックガイズ代表、富士山登山ガイド
松本圭二・高村利太朗山中湖おもてなしの会副会長, 山中湖おもてなしの会会員
関口陽子富士山フォトグラファー
猪熊隆之山岳気象予報士・中央大学山岳部監督
髙杉直嗣2021年御殿場口登山道維持工事現場代理人
羽田徳永富士山吉田口登山道馬返し大文司屋六代目
内藤武正富士宮市役所企画部富士山世界遺産課主幹兼企画係長
河野清夏フジヤマミュージアム学芸員
中村修七合目日の出館7代目・富士山吉田口旅館組合長・写真家
野沢藤司河口湖ステラシアター、河口湖円形ホール館長
三浦早苗ダイビング&トレッキングぴっころ代表
田部井政伸一般社団法人田部井淳子基金代表理事
橋都彰夫半蔵坊館長・わらじ館館長
上小澤翔吾富士登山競走実行委員会事務局
杉村知穂富士宮市教育委員会教育部文化課
河野格登山ガイド
鈴木啓悟富士山写真家
松山美恵山梨県富士山科学研究所自然環境科助手

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