―富士山と出会ったのはいつでしょうか?
子どもの頃に住んでいた横浜の高台の家から、晴れた日には富士山が見えました。でもそれは空気が澄んでいる日にだけ見える特別な景色で、日常的に見る存在ではありませんでした。ところが富士山のふもとに移住してからは、富士山が当たり前のように日々の風景の中にある。特別だった存在が、日常の中にある山に変わりました。
―登山を始めたのはいつでしょうか?
登山を始めた2013年に初めて富士山にも登り、そこから山登りに夢中になり、休日には高尾山や奥多摩など都心から行きやすい山をよく歩くようになりました。次はどんな山に登ろうかと考えていたとき、「富士山を眺められる山も登ってみよう」と思いつき、最初に訪れたのが神奈川県の塔ノ岳です。都内からのアクセスが良く登山道も整備された丹沢山系の山々には、何度も登りました。2016年からは、富士宮ルートでの富士山日帰り登山を続けています。
―富士山をモチーフにした作品を作り始めたのはいつからですか?
2015年頃からです。大学ではデザインを学びましたが、新卒で入った建材メーカーではインテリア関連の企画職で、ものづくりそのものに関わる仕事ではありませんでした。そのうち、自分の手で何かを生み出したいという思いが強くなって。登山をするときに、自作のピアスやブローチを身につけたいと思ったのが、きっかけでした。富士山が大好きだったので「かわいい富士山を編もう!」と思いつき、手編みで制作することにしたんです。当時、富士山モチーフで編み物のものはあまり見かけなかったので、自分で作ってみようと。
―最初に販売したのは?
2016年に、原宿のデザインフェスタギャラリーにある小さな壁面スペースを1週間レンタルして展示販売をしてみたら、すごく楽しくて。それで「もっと作ろう」と思い増産しました。当時はハンドメイドブームで、マルシェやクラフトフェスなどのイベントも多く、見つけては出店していました。けれど、2018年に山中湖で開催された野外フェス・Mt.FUJIMAKIに出店しようと思ったとき、手編みだけでは数が足りなくて。そこで、富士山をデザインした手ぬぐいやペーパーバッグも作り始めました。最初に作った手ぬぐいは、山梨県にある高川山から見た富士山をモチーフに、豆絞りを空に、関東縞を雲海に見立ててデザインしました。
―伝統柄との組み合わせもユニークですね。
そうかもしれません。2019年には、京都・高山寺に伝わる絵巻「鳥獣戯画」をモチーフに、富士登山をテーマにした手ぬぐいも作りました。カエルやウサギが山小屋でカレーを食べたり、大砂走りを駆け下りたり、山頂でバンザイしていたり。富士登山の様子を、ユーモラスに描いています。
―作ること自体、やっぱり楽しいですか?
アイデアを形にするまでには時間がかかるものの、試行錯誤の過程も含めて楽しいです。作りたいものは次々に浮かんできますが、根底にあるのは「かわいい富士山のものを作りたい」という思いです。富士山をモチーフにしたアイテムは世の中に多くありますが、富士山をかわいくデザインしたものはあまり見たことがなかったので、だったら自分で作ってみよう、と。私は営業が得意なタイプではないのですが、活動を続けていく中で声をかけていただいたり、山小屋に置いてもらえたり、少しずつつながりが広がって販売場所が増えていきました。そうした富士山とのご縁に感謝しています。

―蒲生さん自身、富士山グッズのコレクターでもあるとか。
はい、自分でもたくさん集めています。ビーチコーミングをしたときに海岸で拾った、富士山の形をしたシーグラスなども大切なコレクションです。それから、富士山周辺の自治体のマンホールカードも集めています。デザインに富士山と地域の風景が描かれていて、とても面白いんです。あとは、海外の古い切手に描かれた富士山や雑貨も集めています。富士山への好奇心が強いので、日常の中でつい富士山を探してしまいます。
―ご当地富士山や他の山にも登っているとか?
はい。例えば北海道の羊蹄山は蝦夷富士と呼ばれるほど富士山に似ていて、すごく興味深かったです。どの角度から見てもきれいで、小さな富士山のような存在です。そんなご当地富士山にももっと登ってみたいですね。
―富士山を眺めるために登る山も好きとお聞きしました
ええ。遠くから眺めると、見る場所によって富士山のフォルムがまったく違って見えるんです。それが面白くて、ガイドブックや地図などを参考にしながら、いろんな山を訪ねてきました。富士山を眺められる山を登ることで、また違う富士山の魅力に出会えるんです。
―蒲生さんが思う富士山の魅力について、お聞かせください。観光地として見る富士山の魅力は?
場所によってフォルムが全然違うんです。新幹線から見る富士山は右肩に宝永山があるし、山中湖からは両肩が張っているように見える。一周して見ると、いろんな表情があって、それがすごく面白いです。だから、さまざまな表情をモチーフにした富士山のLINEスタンプも作りました。
―登る山としての魅力は?
山頂やご来光を目指す登山ももちろん素晴らしいのですが、それだけではありません。樹海を歩いたり、溶岩や地層を観察したり、火山としての富士山の歴史を感じたり、楽しみ方は本当に多様です。登山以外のこうした体験は、ガイドツアーを利用することでより深く学べるため、おすすめです。
―火山としての富士山に感じる魅力とは?
例えば樹海を歩いていると、かつて噴火で焼けた場所が再び森になっている。その生命力にとても惹かれます。私は「ワタシ的富士山の良い景色」をテーマに、絶景とはまた違う、マニアックだけど魅力的な景色を撮りためて、小さな写真展を開催しました。溶岩の形状や地層を観察するのも楽しくて、わからないことがあると調べたり、詳しい人に聞いたりします。
―今、注目しているテーマはありますか?
今は、明治時代の写真に写っていた「達磨岩」を探しています。剣ケ峰近くにあったとされる岩なんですが、三島岳にあるかと思い行ってみたものの見つからなくて。今はもう失われているかもしれませんが、富士山に登るたびに「どこかにあるかも」と思いながら探しています。このような視点から富士山を楽しむのも、私にとっての大切な時間です。
―蒲生さんにとって富士山とは、どのような存在ですか?
それが一番難しくて、実はいつも明確に答えられないんです。でも、あえて言葉にするなら、憧れのような存在でありながら、友達のようなすごく身近な存在です。富士山がいなかったら今の自分が何をしていたのか想像できないくらい、人生の土台になっている気がします。移り住んでから戻ることなく静岡にいるのは、たぶん、富士山がいるからなんですよね。気づけば、富士山に導かれるようにここにいて、作品を作り、山に登り、活動の軸もすべて富士山が中心にある。だから、「富士山とは何か」と聞かれるとすごく難しいけれど、なくてはならない存在であることは間違いありません。ふとしたときに顔を出してくれたり、登るたびに違う表情を見せてくれたり、知れば知るほど奥が深くて、まだまだ知らないこともたくさんある。この活動を始めてから、富士山のご縁でさまざまな人に出会えてとても感謝していることが、一番の原動力なのかもしれません。きっと、これからもずっと、私を突き動かしてくれる存在であり続けるんだと思います。


がもうゆき 神奈川県横浜市生まれ、静岡県静岡市在住。大学でデザインを学んだ後、建材メーカーにてインテリア関連の企画職を経験。その後、東京から富士山麓へと移住した。登山時に身につけるアクセサリーを自作したことをきっかけに、創作活動をスタート。屋号を「FuG(エフユージー)」として、手編みの富士山を原点に、手ぬぐい・Tシャツ・マグカップなど、富士山をモチーフにしたオリジナルアイテムを制作している。作品は、富士宮市の観光施設「お宮横丁」、河口湖駅前にある「ふじさんプラザ」、富士宮ルート六合目の山小屋「雲海荘」、吉田ルート馬返しの茶屋「大文司屋」などで購入可能。
インスタグラム:@fug3776